その場をまとめる役割や、仕切る立場になったときは、その人の人間力がもっとも試される場面です。余裕がないとつい自分のことでいっぱいになってしまいがちです。
しかし、それでは多くの人に指示をしたり、特定の動きを促したりすることが困難になります。人はいかにして動いてくれるのか?司会者の経験から得た「場を仕切るコツ」をお伝えします。
チームをまとめる立場にある人、人の気持ちを掴む必要がある人にとって大切なポイントをまとめています。
傾聴力:自分のことをたくさん打ち明けた人を好きになる
司会とは、そもそも誰でもできるものです。例えば、会議を進めるとか、サークル、歓迎会、二次会など、普通の人々が日常の中でよく経験するものです。
では、そんな司会をプロの司会者はどのように捉えて、仕事として成り立たせているのか。いったい、どこに違いがあるのでしょうか。
まず「司会」とは「会や催しを司り、進行をすすめる」という役割です。ですから、その会や催しの趣旨・目的を理解するところから始まります。ここの「理解力の深さ」がプロとそれ以外を分けると私は思います。
趣旨
まず、どんなにカジュアルで場当たり的な会であっても、必ず趣旨があります。
例えば結婚式なら「夫婦の誓いを交わす」、披露宴なら「新しい夫婦を招待客、親族にお披露目する宴会」です。入社式なら「新入社員を迎え、祝う会社の行事」でしょう。
また、会社の竣工式なら「新しい社屋の空間を浄め、関係者をねぎらい会社の発展を願う行事」 です。これらが、その会の趣旨となります。
目的
では目的は何でしょう。目的というのもは主催者それぞれで違ってきます。この顧客それぞれの個人的な目的をしっかりと知り、受け止めることが重要です。
例えば披露宴の場合「夫婦になったことを報告する」「お世話になった方に感謝を伝える」「自分たちの個性を発揮して楽しんでもらいたい」「喜びを分かち合いたい」「夢を叶えたい」など、人によりいろいろです。
中には「よく分からないが、とりあえずやるものだと思ったから」という方もいるかもしれません。しかし、よく話を聞いていくと本人も気づいていない目的・要望が整理されてきます。まずは、しっかりとお話しを伺いこの部分を明確にしていきます。
信頼
先ほどの「目的の理解」がずれていると、お客様の満足度は下がります。司会としてのトークの上手さも重要ですが、まず「理解のためのアプローチ」をいちばん重要視しています。
お客様は「あっこの人分かってくれている」=「信頼」そして「安心」「満足」へとつながっていきます。サービス業はまったく同じサービスを提供しても、相手によって評価がものすごく変わります。
目に見えない相性や波長のような漠然としたものが、ものすごく大きな違いを生みます。そして信頼がつかめないまま、お客様が漠然とした不安感を募らせてしまうと、些細な事でもナーバスにさせてしまうことがあります。良い悪いの世界ではなく、好きか嫌いかの世界に近いです。
元々、神経質なタイプの方もいますが、そのような方は逆に心をつかみやすいともいえます。どの部分に神経質なのか探ってピンポイントで理解を示すことができれば一瞬で信頼を得やすいのです。あなたにもありませんか。細かいことが気になる部分と大ざっぱでいいところが。
「あなたのことを教えてください」という素直でオープンな気持ちで対すると、心が通じ合ったという感覚を相手と共有することができます。
安心
信頼をつかんだら、次は「安心感」です。披露宴は殆どの方が初体験となる催しです。再婚の方でも年数が経っていますし、パートナーやその親族友人もまるで変わるわけですから初体験に等しいものだと思います。
「ちゃんと挨拶できるかな」「配慮は足りているかな」「みんなは喜んでくれるかな」「緊張するなあ」いろんな不安があります。そんな不安を打ち明けてくださる人にはひとりの人間として思うことをお伝えしたり、列席者の方の気持ちを一緒に想像してみたり、ご挨拶のコツやお手紙の内容について相談に乗ることもあります。
ここでは披露宴を沢山見た事がある司会者としての意見よりも一人間として向き合うように心がけています。同じ披露宴などひとつとして存在しませんし、そもそも簡単に答えが出せないような内容もあります。
そんな時はもうとことんお客様と一緒に悩み続けます。寄り添う姿勢そのものが安心感なのです。答えはそのうちお客様自身で見つけていかれますから大丈夫。こんな不安を打ち明けてくれる段階まできたら、もう披露宴は90%成功といっても過言ではありません。
技術:トークの技術と受け止める器
ここからは司会の技術面に関して意識していることについてです。技術面というと、アナウンスの力量を思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでは少しマニアックな婚礼司会ならではの技術力について解説します。
次の進行に移る時
それは「前の流れを軽く受けて次に進む」ということです。受けて、次へ、また受けて、次へ、という一人バケツリレーのような感じです。ひとつひとつがブツ切れている話し方をすると、素人に毛が生えたようなただの進行係になってしまいます。
前に行われたことに対して一言コメントを入れたり、盛大にリアクションしたりします。この状況をたった今共有した皆様に問い直すことで、簡単に終わらせないようにします。場合によって、無言は勇気が要りますが黙って噛みしめる短い間をとります。
なぜ、簡単に終わらせないかというと、ひとつひとつがかけがえのなり大切な瞬間だからです。だらけない範囲で出来る限りの余韻を分かち合うために流れを切らさないようにします。
さらに多数が理解できていないような状況の場合などは少し要約を加えることがあります。つまり、すべてのことが「新郎新婦が皆さんからとてもかわいがられ、親しまれ、愛されている」という事実に結びつきます。
スピーチや余興など何でも、行われた何かに対して同じエネルギーで返すことが基本になります。ものすごい熱量で一生懸命に披露してくれた余興やスピーチですから、決まり文句みないに「ありがとうございました。では続きまして~」と簡単に終わらせてはいけないと思います。
たくさんしゃべる必要はありません。また、見てわかることはわざわざ言う必要もありません。例えば「お祝いのスピーチ」であっても人によって、又その内容によって受け方が変わります。例えば、ある程度年輩の方で肩書が高く非常にお話にも慣れておられる場合は「ありがとうございました」で充分かもしれません。
しかし、比較的若い上司がとても緊張していて、いまひとつ自信がなさそうな雰囲気の場合はそのお話の内容に少し触れて「新郎様は普段○○な意外な一面もお持ちなのですね。皆様も大変興味深くお聞きになっていました。お心いっぱいのご祝辞を頂戴しました。これからもお二人のことよろしくお願いします」などと言うと、ご本人もホッとされるかな~と想像し、僭越ながら少しだけ感想をはさませていただくこともあります。
エネルギー的に礼儀正しく
フォーマルな場でスピーチすること、準備をして練習を重ね余興を披露することなど、やる側にとっては決して楽なことではありません。エネルギーにはエネルギーで返すというのは、ひとつの礼儀だと思います。
それから優しさと敬意を常にもつこと。その人がどの部分に一番エネルギーを注いできたのかを素早くくみ取って、そこに感動する方向で拝見することが大事。
そうやって拝見しても、もし別のところに素敵なものを感じたら、自分の感性でお伝えする場合もあります。さらに、ずば抜けてすごい余興を見せられた時などは、もう言葉はいらないです。
少々キザな言い方になりますが、ポイントはひとつひとつにドラマを見いだすということではないでしょうか。これがプロなのだと思います。そしてしっかり受け止めたら、次へ進みます。
空気をポンと変えるように次の雰囲気に切り替えます。こうすることで自然にメリハリが生まれます。強弱とか、笑いと涙とか、真面目になったりちょっとふざけてみたり、同じ状態が続くと大人も子供も飽きてくるものです。
多くを語らない表現・言葉の選択
究極のプロフェッショナルはここです。道半ばの私が目指すのは「語らず語る」まだまだ難しいです。言葉はどうしても現実を限定してしまうので、言葉にした瞬間どれも私の偏見になってしまうような気がします。だからその私の偏見が皆と共有されるにふさわしい必要があるのです。
日常から人の喜びがどこにあるのか。人の悲しみがどこにあるのか。私の思い込みは、ずれていないか。私の発言は矛盾していないか。しゃべるまえに考える癖をつけたいと思いながら過ごす毎日。
ただ聞いただけのことを、まるで真実かのように自分の中に定着させてしまうのは危険なことだと思います。自分で真実を感じ取り、多くの人と分かち合えるかを考えて口から出す。それを一瞬のうちに行うということは相当難しいことですが、いつも意識しています。
精神力:この場を「何があっても、何をやっても良い空間にしていく」という決意
精神的にはこれに尽きます。完全な正解なんてあるのかないのか分からない。ただひたむきにやるのみ。あと、夫婦の誕生に立ち会う者として清らかさと品性+情熱に裏打ちされた「自分の存在そのもの=個性」そういうものを大切にしたいといつも思っています。
個性とは出すものではなく、隠そうとしてもにじみ出てしまうもの。涙も汗も同じですね。自分の意思でなかなか止められません。
また、話が大きくなりますが地球上で起こりうる出来ごとなら披露宴中いつ起こってもおかしくありません。大地震の場合については日頃から時々シュミレーションしています。
まず停電したらマイクが使えないし、室内が真っ暗かもしれません。地声で叫ぶしかないですね。キャンドルの炎はすぐに消すこと、シャンデリアの下から離れてもらうこと、割れた食器に注意すること、スタッフの指示に従って非難してくださいと言うこと、けが人がいないか確認すること、ドアの近くにいるならドアを開けること等々。
実際になってみるとどうなるかなんてまったく予測がつきません。でもお客様を最優先に避難させるという役目は当然あると思っています。